最強戦(6) 豊島将之七段vs橋本崇載八段

twitterで「草食対肉食」という表現を見かけたりもしたけど、前年度順位戦の昇級者という共通点があったりもする二人。将棋世界の「昇級者喜びの声」として、二人とも不調の克服を口にしていたのが印象的だった。
 以下「将棋世界」2011年5月号からの引用。ちょっとした名文だと思う。

 10回戦、阿久津七段戦の前にとてつもなく不快な出来事があり、前日の段階でとても将棋を指す気分になれなくなっていた。大事な将棋なのに……。
 眠れない夜に、私は一つの結論を出して対局に向かう。一生懸命指して負ける自分を絶対に責めないと。負けることはわかっていた、案の定ボロ負けだった。でも精一杯頑張ったぞと胸を張って帰る最中に、心の重圧がとれた気がした。
橋本崇載「今だから言える一年間の想い」)

 今年度、王位リーグ陥落、7月の4連敗、新人王決勝で負けたところまでは常に前向きでいられました。
 しかし、王将戦で挑戦を逃したときは違いました。
 ふと気が付くと勝ちを逃した局面を思い出していて、
「なぜあそこでああやらない?」
「プレッシャー? しかし別にドキドキしていなかったじゃないか」
「1年前より技術、精神力ともに伸びているはずなのに……」
 などと自問自答が続き、
「実力不足だからしょうがない。もう1回地道に頑張ろう」
「大一番で勝つか負けるかよりも努力を続けることのほうが重要じゃないか」
 と自分に言い聞かせて将棋盤に向かってみても、少し経つとまた、負けた将棋のことを考えている、そんな日が続きました。
 しかし、時間の経過とともに、徐々に立ち直っていきました。敗戦から2ヶ月ほど経ち、自然に将棋を楽しめている自分を発見し、
「もうこれで大丈夫だ」
 と思ったときの安堵感は言葉では言い表せません。
豊島将之「思いがけぬ昇級」)

将棋は後手の橋本八段がオーソドックスな三間飛車を指し(後手だったらこう指すと決めていたとのこと)、対する豊島七段は居飛車急戦へ。四間飛車対▲57銀左の急戦だったら見たことがあるけど三間飛車対急戦の将棋ははじめて見たかも知れない。なかなか面白く、橋本八段が捌き切れるのかなと思ったけど、あれよあれよという間に銀が成り、橋本八段不利の情勢に。とは言いつつも飛車も角も切り、あと1手というところまで追いつく様は圧巻でした。橋本八段の攻めが切れたところで豊島七段が寄せ切って勝利。
個人的にはこういう将棋が増えて欲しいなぁと思う一局。戦型もさることながら、「勝負をしている」という感じがする。