よくわからないLSPA契約解除騒動について、よくわからないなりに考えてみる。

* いちおう新聞や一次情報等をもとに書いていますが、よくわからないなりに書いているので、事実誤認もあるかもしれません。その点を踏まえていただければ幸いです。

1・経過
① 2012年7月にLSPAが渡部愛を独自基準による女流3級としてプロ認定、他の女流棋士と同様の扱い(主要棋戦への参加等)を求める。
② 将棋連盟はLSPAとしてのプロ認定を尊重するものの、連盟の関わる棋戦の参加のためには(連盟における女流棋士資格要件となる)研修会の卒業が必要と文書連絡。LSPAは「自治権の侵害」であるとして文書にて拒否。以降、面談による調整等は行われていないようす。
③ LSPAはマイナビやリコー等の棋戦スポンサーに対して同様の要望。しかし各スポンサーはお門違いだとして判断そのものを拒否、連盟との調整を促す。
④ 2や以前の経緯からかLSPAは連盟との話し合いを行わず(リコー担当者の発言より)、折り合いがつかないことから、契約更改の時期に入っていたマイナビは最終決定として次期以降のLSPAとの契約断念を通知。
⑤ LSPAは渡部と連盟所属の女流棋士とのあいだに待遇差別があるとして今期のマイナビオープン契約を途中解除、次期マイナビオープンについての契約を行わない旨通知。記者会見を行い、代表理事でもある石橋幸緒女流四段は1/30にあった同棋戦の対局を「断念」。新聞等でも報道され、問題が表面化。
⑥ 日本将棋連盟は上記対局を「棄権」による不戦敗とし、業務妨害として法的措置を弁護士と検討、また、契約解除通知は無効、女流棋士制度の歴史的観点から2の立場を譲れないとする見解を記者会見にて発表。
⑦ LSPAはネット上で⑥の経緯・背景を説明。(時期不詳だが)合同の女流棋士育成制度を作ろうとしたものの連盟に拒否されている、将棋連盟による執拗な妨害工作が行われている等、連盟とLSPAが友好関係では無いことを示唆する主張を行う。また、マイナビへの契約解除通知文書をpdfファイルにて公表。マイナビを「不平等で偏頗」と批判する内容であり、また、連盟所属の棋士の実名を挙げて比較したうえで、渡部やLSPAが差別的扱いを受けている点を強調。
⑧ 今回の件について、朝日新聞日本経済新聞各担当者が新聞・ツイッター等を通じて両者の和解を促す意見を発表。リコー担当者がツイッターにてLSPAの行動についてスポンサーやファンへの裏切り行為だとして批判。
(文中敬称略)


2・気になったポイント
① 連盟が自身の機関での再認定を求めた点について
 一度LSPAで認定している以上、再度連盟で認定を、というのは二度手間だし、たしかに承服しかねると思う。ただ、(連盟のほうから言い出すことは難しいとはいえ)渡部さんの実力を考えれば例えば特例措置などの譲歩案、またこれをきっかけとした(所属による不公平をなくすための)棋士規定の調整など、そういう前向きな話し合いの機会は設けて良かったはず。こういった大切なことを文書のやりとりで済まされてしまったというのは疑問。
② スポンサーにプロ認定を認めてもらおうとした点について
 リコー・日経各担当者が言う通りで、それをスポンサーが決めることは普通しない。逆にスポンサーがプロの認定基準について権限を持ってしまえば、それこそスポンサーによる将棋界への「自治権侵害」になってしまう。連盟がLSPAの女流3級と連盟の女流3級を同等とする点について疑問があるというのだから、それは連盟とLSPAの話し合いで解決されるのが普通。
③ 共同による女流育成制度を拒否されたことについて
 現在の将棋連盟には「女流棋士育成会」じたいが存在しない。現存するのは「研修会」で、研修会でC1資格を取れば女流棋士の「有資格者」となるだけで、その後女流棋士にならずに奨励会員になる、またそのどちらにもならないという選択肢も与えられている。斉しく女流棋士育成のみを目的としているわけではない。
 合同の女流育成制度を作る、または運営するというのは、連盟にとってはその女流棋士育成会を復活させることになる形になると思うけど、その囲い込みにどれだけ会員にメリットがあるのかは疑問(むしろ将棋の実力向上という面では損も多いと思う)。だいいち、性差を認める形で「女流棋士」の地位を確立させたいLSPAと男女による性差そのものを無くしたい将棋連盟の利害が一致するとは思えない。現存の研修会に近いものを共同運営するという形になるとしても、女流棋士有資格者をめぐってLSPAと将棋連盟で取り合いを始める、ということにもなりかねない。
 ただ、団体ごとで女流棋士を認める形にして、その規定について①で書いたような調整を行うというのなら賛成。
④ 対局放棄やスポンサー、連盟への批判について
 ここが一番気になるところで、この一連の「抗議行動」を見ていると、根本的にLSPAは将棋連盟と和解する気がそもそも無いのかな、と思ってしまう。同じLSPAでもエグゼクティブアドバイザーの中井広恵女流六段は将棋連盟との対話を求めているように思うんだけど、LSPA執行部は法的な拘束力を武器に要求をゴリ押すことを第一に考えている節がある。週刊誌報道を参考に「連盟がLSPAを潰そうとしている」だなんて、仲直りしようとしている人が使う言葉ではない。
 このままではマイナビ女子オープンだけの話ではなくなってしまう。混乱を嫌がるスポンサーが棋戦を降りて、多くの棋戦がなくなる、ということにもなりかねない。それはLSPAにも当然悪影響が及ぶと思うんだけど、LSPAはそれを望んでいるのだろうか。女流将棋界をめちゃくちゃにしてでも、将棋連盟と刺し違えたいのだろうか。


3・解決のための私案(和解するつもりの場合)
① 渡部愛さんに連盟の関わる主要タイトル戦をはじめ、他の女流プロと同様の参加資格を認める。ただし、将棋連盟の女流3級と同様に、2年で女流2級の要件を満たせなかった場合は女流3級の資格を取り消し、ツアー女子プロとして再び「研修」を行う。LSPAの女流棋士2級への昇級要件として連盟棋戦に関する昇級規定を追加すること。また、ツアー女子プロから女流棋士になる場合、年齢制限を設けること。
② 将棋連盟研修会員とLSPA女流棋士志望者の定期的な対局交流会を開催。昇級や資格取得に影響しない非公式戦として扱うが、対局結果を公表すること。
③ 対局拒否を行った石橋女流四段へのペナルティ。女流最高棋戦の準決勝を棄権しているわけだから、(和解するつもりなら)罰則はどうしても不可避ではないかと思う。どれぐらいかが妥当かはちょっと分からないけど、郷田真隆棋王竜王戦1組トーナメントを寝坊で不戦敗した際の罰則が「対局料不支払い・竜王戦月額手当年額の半分返納・1日ボランティア活動」なので、これと同じか、やや上下するぐらいが理想なのかな、と。