先輩とのこと(後)

(承前)転勤した後、自分が仕事を外されるきっかけになった最初の仕事を任されまたつまずきかけ、「たまたま研修の帰り道なんで…」とちょっと嘘をついて前の事務所の先輩のもとに聞きに行った。先輩は特にその仕事については他の追随を許さないというところがあり、それなら彼女に聞くのが一番だと思ったからである。先輩は「特別なことはしてへんで」と言いたそうにしつつも、聞いた答えは「聞きに行ってよかった」と思えるものだった。単に技術的なことを聞けたことだけでなく、そこに思想という血液を通してくれる。その一言一言に目を覚まされ、改めて、この人を尊敬しなければいけないと感じた。
最後に、彼女はこんな一言を添えてくれた。うろ覚えだけど、だいたいこんな感じだったと思う。
「あたしも実はな、他の仕事よりもこの仕事が一番苦手なの。でもな、最初に苦手を克服しといたらさ、後はラクやん?(親指を立てる)加藤君だってあの仕事をやりはじめた頃は叱りっぱなしやったけど、最後のほうはチェックも楽やったもん。大丈夫やって。」
彼女は以前別の機会に事務所を訪れた際、冗談半分にプレゼントした私の今の名刺をデスクマットの、キーボードを置く場所の少し下、手元の部分に入れてくれていた。やがて場所換えしたり、名刺そのものをデスクマットから外す日が来るかも知れない、しかし、全く望みナシだと思っていた自分にとっては、それでも十分だ。私は彼女から教わったことを帰りの電車の中、手元にあったiPod Touchでメモし、それは今もことあるごとに見返している。
その仕事に対する恐怖感は、(まだまだ拙い部分もあるだろうが)前よりはなくなった。